五葉松 樹齢約100年
細身の双幹は同調するように曲線を描き、他には見られない樹相を創出しています。切立のすっきりとした薄手の長方が作品の持つ空間の美しさを更に高めています。
この樹は今回の風雅展に出品が決まるまで長い間手入れをされず、鉢上の土は盛り上がり、枝は倍程の繁茂となっていました。丁寧に表土を覆っていた余分な苔や土を時間をかけて取り除き、“間調子”を大切に“切り込んだ事を見せぬように”枝の剪定を施しました。
掛物は書道界の重鎮 草野靄田師が遺された「一雨千山を潤す」左方の“留め飾り”には小さな石中に深山渓谷の姿を持つ釜無川の滝姿。
五葉松の飄々とした味わいと掛物 添景のバランスを考慮した薄造りの卓合わせ・・・。ひとつひとつが秀作であるものを調和させた空気感へと創り上げる、そしてその席中に自然の“在るべき姿”を現出する。これも盆栽趣味のひとつの到達点と言える世界です。
「風にその身を靡かせながら幾星霜の風雪に耐え、その苦難を見せず飄逸として生きる姿。書中に筆された言葉はありのままの自然であると共に人生を通して人が識るべき意も含んでいます。
添えられた滝石はあくまで小さく、それが為に席中の大自然は限りなく大いなるものとなっています。一点飾りでは感じられない精神性高い美がこのような微妙な組み合わせの世界観で生まれるのです。今回の風雅展を代表する一席としてご紹介します。